心に噺がおじゃましまっす!

心の端にそっと置いてもらえるような物語を目指して書いています。

ぷるぷる大陸物語 第12話 無機質な巨人

f:id:hirozacchi:20190425002157p:plain

だいぶ仕事も慣れてきて、スレイからも仕事をもらえるようになってきた。
実は俺達は、良くも悪くも魔法の基本から外れた魔術師なのだ。
落ちこぼれ酒場にはそのような魔術師が少なくない。

 


大陸流の魔法の基本とは『火・水・風・土』の4つの属性を基本としている。
『火』はその名の通り、炎を出す事ができる。
『水』は基本的に水を操るのだが、どちらかというと氷にして対象を攻撃する事が目的のように思える。
そして『風』は風を起こせば全て『風』の属性となるようだ。つまり以前狩りをしたチェリートは『風』属性とされいる。俺から見ると熱を発して上昇気流を作り出していたチェリートは『火』属性に見えるが誰も信じないだろう。
更に分からない属性が『土』だ。物質を動かす魔法を『土』とするらしい。プルを加工せずそのまま物質を持ち上げたり弾き飛ばしたりする。
大地を動かすから『土』ということなのだろうか?

 

ともかく、俺はこの大陸で言うところの魔法の基本は納得できていない。
これら『火・水・風・土』に属さないその他の魔法を『無』というらしい。
俺達の魔法がそうだ。
ユエルドも魔法の基本から言うと『光』属性ではなく『無』になるのだ。
そして『無』は無意味の『無』であり、直接攻撃できない魔法に価値を見出していない。
しかしいつかこのゴリ押しの魔法では限界が来るだろう。
スレイもそこに気付いた1人だったのだと思う。

 


「ハインツさん、武器手に入りましたよ。」
スレイはノックせず俺の家に入ってきた。お気楽3人衆を引き連れていた。
スクジェルの時、呼び出される事が嫌いだと言った俺の為に、俺のところへ皆が来るようになっていた。
俺が育った村にはノックをする習慣が無かったので、ノックはしないでくれと頼んでいた。
つまり俺の家をノックする奴は仲間ではないのだ。分かりやすい。

 

スレイが差し出した新しい短剣は、柄の部分に水晶が施されていた。
今まで使っていた短剣と同じ大きさで握り心地もぴったりだった。
何一つ文句の無い、完璧な仕上がりだ。

 

ユエルドも見慣れない杖を持っていた。
杖を含めて服も髪も全身真っ黒で、いかにも闇の魔術師だ。

「仕事の話もあるんです。今回の仕事はプルプット村付近からの依頼です。」
プルプット村は俺が生まれ育った村だ。
山の幸が多いが、そのぶん動物も沢山生息している。
危険な動物が出てどうしようもなくなると、村ごと場所を移動する事も珍しくない。
「どんな動物が出たんだ?」
生まれ育った村の事情を知っているだけに、それほど驚かなかった。スレイの言葉を聞くまでは。
「それが動物と言っていいのかどうか。ゴーレムが出たらしいです。」
「ちょっと意味が分からない。スレイの口からそんなおとぎ話のような事を聞かされるとは。」
「もちろん私も耳を疑いましたよ。でも王国兵士からは『岩でできた巨人に襲われた』、『まるでゴーレムの様だった』と報告を受けています。実際に魔術師が倒したそうですが、砕いても中身はただの岩だったそうですよ。」
「そんな事ってあるか?まあ、アストリアならそれが生物かどうか分かるかもしれないな。行ってみるか。」
みんなは当然行くつもりのようだ。

 


俺はもう1人誘いたいと言って、サネアツの家へ向かった。
サネアツもプルプット村出身なのだ。
「おい、サネアツ。里帰りしないか?」
「は?もう逃げ帰るのか?」
「仕事で行く事になった。この仕事が失敗したら村の位置が変わるぞ。」
「そりゃ困る。変わった後の場所は知っておきたいな。」
まだ失敗すると決まった訳では無いが。
ともかく、サネアツも同行する事になった。

 

「ハインツに友達が居たんだな。驚いた。」
トルキンエが本気で驚いている。全く失礼な奴だ。
「友達じゃない、ただの知り合いだ。」
ま、便利な奴だが。

 


プルプット村まではかなりの長旅になる。
プルピッタ山脈の麓に着くまででも1週間かかり、そこから更に5日山を登ったところに村がある。

 

と思っていたがスレイの奴が、また金持ち発言をしやがった。
「プルボードで山の麓まで行きましょう。」
「定期便は無いだろう?」
「大丈夫ですよ。山の麓までなら危険な動物もいませんし、お金さえ払えば送ってくれますよ。今回は緊急事態ですからね。」
歩くから、その金を俺にくれ。プルプット村の人間はそんなにやわじゃない。急ぐ必要もないだろう。

 

残念ながら、国の大きな圧力には勝てず、プルボードで山の麓まで行く事になった。
山の麓には王国兵士『黄龍団』が待っていた。
黄龍団はプルピッタ山脈を管轄とする王国兵士団だ。
黄色を基調とした制服で、山のエンブレムを付けている。

 

王国の西、プルプール大森林を管轄とする『緑龍団』
王国の東、プルスーラ平原を管轄とする『青龍団』
王国の南、プルカラ砂漠を管轄とする『赤龍団』
王国の北、プルピッタ山脈を管轄とする『黄龍団』
これら4つの団を色団と呼び、幼龍団で訓練を終えると色団の何れかに所属する事になる。
つまり黄龍団は幼龍団とは違い、一人前の王国兵士の部隊という事になる。
余談だが、赤龍団と黄龍団は色を入れ替えてた過去がある。
黄色い制服を着て砂漠を歩くと、遭難時見つけにくいという理由だったらしい。
俺のように山で育った者としては、赤でも黄色でも変わらないと思うのだが砂漠は違うようだ。

 

日が落ちて辺りは薄暗くなってきている。
送ってくれたプルボードは誰も乗せず、元来た道を戻っていった。

 

駐屯所からいかにも山の漢と思わせる大柄な王国兵士がやってきた。
「黄龍団兵士長のガーラと申す者です。ご足労感謝!」
「王国の役所から来ました。スレイです。聞き馴染みが無いかもしれませんが、生物調査係という部署に勤めています。こちらは魔術師のハインツさんご一行です。」
「話は聞いておりますよ。プルパールでは大活躍だったそうで。」
ガーラはそう言うと豪快に笑った。
「早速ですが、ゴーレムについて詳しく教えてください。できればガーラさん個人の意見も聞きたいです。」
「ん、ああ。子供みたいな報告で申し訳ありませぬ。私自身、あれが何なのか分かっておらんのです。突然そこらに転がっていた岩が起き上がったと思ったら襲ってくる次第で。あまり素早く動けないらしく逃げる事ができるのですが、逃げた後戻ってみるとその岩はもう動かんのです。砕いてみてもただの岩のようで。その為、我々は生物とは考えておりませぬ。」

倒すだけでなく、逃げ切ってもただの岩に戻るのか。謎が深まっただけだ。
あまりに現実離れした話にスレイまで沈黙している。
「まあ、幸い動きが遅いので逃げれば被害はありませぬ。プルプット村が襲われた時の為に、今はゴーレムが出現しない別の場所を探しておるのです。」
既に村ごと移動する前提か。
プルプット村の民族は何度となく危険動物に襲われては移動してきた。その歴史から考えると当然の判断だし、移動も慣れたものだ。
ただ、いくら慣れていると言っても、住み慣れた土地を手放すのは大変な事に変わりない。

「そのゴーレムだった岩を見たい。案内してくれ。」
「もちろんそのつもりで。ただ一番近くてもここから3日はかかりますゆえ、今日は休まれてはいかがかと。」
「いや、今から出発しよう。」
「ちょっとハインツ、落ち着いて。気持ちは分かるけれど、今日は休みましょ?」
「アスの言う通りだ。私はここで寝るぞ。」
トルキンエが駐屯所にずかずかと入っていった。
「トル~、待ってよ~」

 

・・・そうだ。プルプット村の人間はそんなにやわじゃない。大丈夫だ。

実際に見た人の証言を聞いて、冷静さを失った事に気付いた。
生物なのかどうかさえ分からない存在が、俺の故郷を脅かそうとしている。
分からない事が恐怖を掻き立てるのだ。

 

「まあ、焦っても解決しねーよ。今日は休むぞ。」
サネアツが分かったような事を言う。
「生き物じゃなかったら、お前担当だからな!覚えとけよ!」
サネアツが作った道楽だったらどんなに楽だろう。

 

そんな中、ユエルドだけが一歩も動かなかった。
俺が頑なに出発すると言えば、恐らく何も言わずについてくるつもりなのだろう。
そんなユエルドに危うさを感じた。

前に俺の事をリーダーだと言ったのを思い出した。もう年齢は関係ない。
俺の一瞬の判断ミスで仲間まで危険になる。
「今日は休もう。」
ユエルドに聞こえるように、そして自分に言い聞かせるように、静かに宣言した。
スレイとガーラも安心したように頷いた。

 

 

f:id:hirozacchi:20190319213151p:plain

『ぷるぷる大陸物語』についての概要、キャラクター設定、第1話へのリンク等は、

『ぷるぷる大陸物語』-概要

をご覧ください。

 

 

⚫︎スポンサーリンク⚫︎